北見市|注目を集めた「書かないワンストップ窓口」をWinActorでさらに効率化、職員の負担軽減と市民サービス向上へ
北京オリンピックで活躍した女子カーリング・チーム「ロコ・ソラーレ」の地元としても有名な北海道北見市は、約113,000人が暮らすオホーツク圏最大の都市です。同市は市民サービスの向上、業務改善に積極的で、特に市民視線に立った窓口業務の改善策のひとつとして2016年にサービスを開始した「書かないワンストップ窓口」は、多くのマスコミでも採り上げられました。2019年からはこの窓口業務にRPAソリューション「WinActor」を導入し、さらなる業務効率化を進めています。
-
- 導入業務
- 各種証明書の出力操作
- 住民基本台帳システムの入力処理
-
- ポイント
- 証明書受取までの待ち時間を約450時間/年削減
- 職員の業務時間を約1,420時間/年削減
- 証明書の発行操作を年間約51,000件自動化
「書かないワンストップ窓口」で、住民・職員の負担軽減と効率化に成功
北見市の「書かないワンストップ窓口」は、市民が各種証明書の交付を受けたり、転入・転出などのライフイベントに関する手続きの際の手間と時間を大幅に削減するサービスです。こうした手続きは、市民が市役所へ出向いて申請書に必要事項を記入し、各々の手続きを担当する課の窓口にそれぞれ提出するのが一般的です。しかし申請書の中には記入の仕方が難しいものがあったり、窓口をいくつも回る必要があったり、同時に行うべき申請をし忘れて、何度も市役所へ足を運ばなければならなかったり、市民にとって負担がかかりがちなものです。(例えば子どものいる家族が転入した場合には、転入届の他、上下水道の手続き、子ども医療費助成制度の住所変更、転校手続きなど、複数の申請が必要となります。)
そこで北見市では2014年、「北見市ワンストップサービス推進計画」を立案しました。来庁者が最初に訪れた住民異動窓口で、できるだけ多くの用件を終えられるようにして、負担感や二度手間を減らすのが目的です。2016年には計画実現の一環として、市内に本社を置く株式会社北見コンピューター・ビジネスと共同開発した「窓口支援システム」を導入しました。このシステムは、各課が使用している複数の業務システムから、窓口業務に必要なデータを呼び出して表示できるものです(図1)。窓口職員が来庁者の同意を得た上で、システムを操作しながら、来庁者と一緒に手続きの受付を進めていきます。本人が記入しなければならなかった氏名や住所などは、市が保有する住民情報を活用して印字される仕組みになっているので、市民は内容を確認してサインするだけで申請書を完成させることができます。サイン以外は基本的に「書かない」ですむわけです。
また、来庁したライフベントの内容から、関連して必要となる手続きを自動でリストアップする機能もあり、「本当は必要だった手続きをし忘れた」ということもほぼなくなりました。来庁者の手続きがスムースに、ワンストップで進むことで、職員側の業務量も削減されるというメリットもあり、このシステムを利用したサービスは2022年に開催された「夏のDigi田甲子園<市・実装部門>で3位入賞を果たし、大きな注目を集めることになりました。
窓口支援システムでできること(北見市提供)
窓口のデジタル化をきっかけに、RPAの利用に踏み出す
「窓口で受付された紙の申請書は、各々の担当課に振り分けされ、各課の職員の手によって業務システムへ入力処理されていきますが、『申請書を作成した際のデータをそのまま入力処理に使えるのでは?』という発想から、RPA導入の検討を始めました」と、市民環境部 窓口課 管理係長の吉田 和宏 氏は話します。
北見市役所 市民環境部 窓口課 管理係長 吉田 和宏 氏
申請書から手入力するのではなく、窓口支援システムで生成したデータを各業務システムにRPAを使って自動入力、自動チェックさせれば、業務負荷はさらに下がり、証明書交付までの時間短縮や、職員の業務負担削減にもつながります(図2)。導入にあたりいくつかのRPAツールを試した結果、最終的にWinActorを選びました。
「窓口支援システムで受付したデータを業務システムにRPAで入力していく際に課題となったのが、当時利用していた業務システム側の制約により画面上にデータをコピー&ペーストできずに、対象となる個人を検索できないケースがあることでした。そこで、画像マッチングの手法を応用したのですが、この手法で解決できる機能が備わっていたのはWinActorだけでした。」(吉田氏)
WinActorでは予め設定しておいた画像を、画面に表示されている画像の中から探し出す画像マッチングが可能となっています。本来は、見つけた画像の位置をベースに、次にクリックする位置を決めるための機能ですが、これを応用したのです。
シナリオ開発は、NTTデータ販売特約店のゴールドパートナー認定企業であるアイエンター社のサポートを受けつつ、市職員2名で行いました。ほとんど独学に近かったにも関わらず1ヶ月ほどで実証試験を完了し、2020年には運用が開始されました。
「シナリオの作成は当初こそ戸惑いましたが、直感的な操作で可能でしたので、慣れるまで時間はかかりませんでした。なお、RPAのシナリオは日々いろいろな要因で停止することがありますが、RPAが操作対象とする自治体の業務システムに関して、その入力手順や複雑な組み合わせを知り尽くしているのは自治体職員ですので、RPAのシナリオは自分たちで簡単に修正できるように職員を養成しておくことが大切だと思います。」(吉田氏)
窓口支援システムでできること(北見市提供)
大幅な時短効果、ヒューマンエラーの削減も
現在、窓口で出力する各種証明書(住民票、印鑑証明、所得課税証明書、戸籍全部事項証明書)の7割と、住基システムへの入力処理(転居、転入、出生、死亡など)が、窓口支援システムとWinActorとの連携で処理されているといいます。その効果は図3で分かるとおりです。申請者が証明の受取まで待つ時間を年間で約300時間、職員の業務時間を年間で約688時間も削減できていることになります。この数字は2019年に行った実証試験を基に計算されたものですが、処理対象業務が拡充された現在はさらに多くなっているとのことで、2021年度では証明書発行操作の自動化を年間約51,000件、住基システムへの入力作業を年間約7,000件自動化し、証明書受取までの住民の待ち時間が年間で約450時間、職員の業務時間が年間で約1420時間削減できているとのことです。
「WinActorを利用したフローでは、証明書を出力したり、住基システムへ異動の入力をする工程が代替された分の時間を、郵送作業やおくやみワンストップといった他の工程に優先的に回せるようになりました。担当職員からは『ヒューマンエラーが減った』という声も上がっています。WinActorによる作業は信頼度が高く、もう当たり前の工程として認識されるようになっていますね」(吉田氏)
証明書出力処理の効果検証結果(株式会社アイエンター提供)
「窓口業務はターニングポイントに来ている」
「夏のDigi田甲子園」での受賞、それに続くマスコミ取材などにより、「書かないワンストップ窓口」が有名になると、窓口課には多くの自治体が視察に訪れるようになり、実際に業務に取り入れる自治体も出てくるようになりました。2023年現在、北海道岩見沢市、埼玉県深谷市、静岡県浜松市などが既に北見市が開発したシステムの運用を開始しており、2023年度末までに14自治体で導入されるといいます。北見市と同じ窓口支援システムを導入した自治体に対しては、すぐに自動化にも着手できるよう、同システムと連携させられるWinActorのシナリオを提供していると、吉田氏は話します。
「その地域の住民の方々はもちろん、人手不足で困っている自治体の職員には、こうしたITを活用して楽をしてほしいと思っています。自治体の業務は全体的に前例踏襲型になることが多いのですが、これからは仕事のやり方を見直すことがより重要になってきます。特に窓口業務はターニングポイントに来ていて、今までの『普通』を、より効率的なものに変えていく必要があるのではないかと思います」(吉田氏)