共感と発見の座談会開催 国立4大学がDX推進で業務効率化を目指す
後段左から順に 長岡技術科学大学 松田氏、長岡技術科学大学 久保氏、新潟大学 西山氏、千葉大学 山﨑氏、千葉大学 岡澤氏
前段左から順に 長岡技術科学大学 坂井氏、新潟大学 寒川氏、北海道教育大学 神山氏、北海道教育大学 平間氏
2023年9月、東京ミッドタウン八重洲内にあるシェアオフィスを会場に、財務・会計に携わる大学事務職員による座談会が開催されました。業務効率化の事例や改善ノウハウの共有と、今後の連携・課題解決を目的として、今年3月に続く2回目の実施となりました。参加したのは新潟大学、長岡技術科学大学、北海道教育大学、千葉大学の4校。今回は二部構成で行われ、第一部は収入会計業務について集中的に議論し、第二部は会計業務全般を対象と、テーマを設けて活発な議論が展開されました。座談会の様子をご紹介します。
第一部|収入会計業務の効率化と課題
納入対応作業の負担をシステムで軽減。各校共通の課題も議論
第一部は「収入会計業務」に焦点を当て、各大学からITツール導入や電子化による好事例と課題の共有が行われました。参加校の中でも特にDX化で業務改善を推進させる新潟大学は、システム改修やツール活用によりさまざまな収入会計業務の電子化を実現させています。
「授業料の請求・督促時に振込依頼書を印刷して郵送していましたが、作業の手間やコストが課題でした。そこでコンビニ支払いの収納代行システムを導入したところ、大幅な業務量削減に成功。年間70万円を超えるコストカットも実現できました。入金確認がリアルタイムで可能な点も大きなメリットです」(新潟大学・寒川氏 )。
実際に送付している請求メールのサンプル
学生へ通知する支払用URLのメール送付や、入金確認後の消込作業にはRPAとマクロを活用して自動化することで、繁忙期の業務負担が軽減されたと言います。RPA活用の実演画面を見た他大学の職員からは、導入コストや準備期間など具体的な質問が飛び、冒頭から密度の濃いやり取りが交わされました。
収納代行システムは千葉大学でも導入が進み、検定料や入学料納入の対応作業を縮小することができたと言います。
「繁忙期の窓口対応や入金消込作業が、職員の負担になっていました。システムの導入により負担軽減、学生の利便性向上にもなった一方で、これまで紙で保存していた書類の今後の取り扱いが課題に挙がっています」(千葉大学・山﨑氏)。
ペーパーレス化については長岡技術科学大学からも課題として挙げられました。
「債権管理の一連の作業にまだ紙を使っています。電子化したいところですが思うように進まない」(長岡技術科学大学・坂井氏)という相談に、「債権管理作業に関わらず、まだまだペーパーレス化は進められていない」、「リスク削減のためにも書類の扱いは減らしたい」と他大学の職員と共感のやり取りが交わされました。
これに対して、今回の参加大学をはじめ、学校専門に業務改革や経営改善のコンサルティングを行う株式会社エデュースの芝田氏は、ペーパーレス化の推進を提言。
「ペーパーレス化はほかの大学でも常に課題として挙げられ、OCRの導入に注目が集まっています。書類を扱うことで、誤送付などによる個人情報漏洩のリスクも高まります。業務効率化を進めるためにもペーパーレス化は積極的に推進するべきでしょう」(芝田氏)。
株式会社エデュース・芝田氏
ITツール活用で学生の利便性向上。議論中に課題解決のヒントを得る場面も
そんな長岡技術科学大学からは、ITツールを活用して学生の利便性を向上させた事例の共有がされました。
「これまで口座振替金額の通知をしていなかったのですが、問い合わせが多く、その後の対応も煩雑だったのが課題でした。ITツールを活用したことで、職員の業務は増やさず、学生へ通知する方法を確立。問い合わせや督促数を減少させることができました」(長岡技術科学大学・松田氏)。
Googleスプレッドシートの「差し込みメール送信ツール」を活用し、口座振替金額の通知業務を効率化
意見や感想が飛び交い議論が深まる中、北海道教育大学からは負担軽減施策の先に浮上した課題の相談が。
「学生への授業料通知をはがきで行っていますが、印刷と発送をアウトソーシング化。業務時間の削減は叶いましたが、はがき代や送料などのコストが課題として残っており、通知方法自体の見直しを検討しています」(北海道教育大学・平間氏)。
この相談に対し、すでにはがきでの通知を廃止し、メール通知への切り替えを行った他大学から「廃止前最後のはがき送付時に、二次元バーコードを印字してメール通知への切り替えを周知。手間もコストもかけず、全学生に通知することができました」と実体験を紹介し、現場目線での具体的なアドバイスがなされました。
そのほかにも窓口対応や現金出納の継続、電子化における他部門との連携など、大学事務職員ならではの課題に関して議論は白熱。第一部を終え、各大学とも担当者がRPAの活用やITツールの導入による省力化に意欲的で、自身の業務改善策を発表し、リアリティのあるアイディアやアドバイスが得られる座談会を有意義に感じている様子が伝わりました。
第二部|RPAで効率改善。省力化が進む会計事務作業
RPA活用のきっかけは人手不足。講習会で他部署へ波及も
RPAの活用により、2名で行っていた業務を1名で処理可能となった
ほかにもRPA活用の講習会を実施し、経理課以外の部署でもRPAを導入する動きが見られました。各部署で業務改善事例ができたことにより、多種業務の見直しが図られ、意識改革になったと言います。ほかには新潟大学からも伝票入力業務や収支簿の出力作業でのRPA活用事例があがり、単純・大量のデータ入力作業などは優先して自動化を進めていきたいと語られました。
多様な働き方実現のために、互いに協力して業務改善推進
さらに第二部でもさまざまな悩み相談が飛び交い、「伝票の電子化」や「口座登録の手入力作業」といった大学職員として共通の課題が挙げられました。第二部では業務の枠を越えて「大学職員としての悩み」にもフォーカスされ、とりわけ「在宅勤務の促進」について多くの意見が交わされました。
今回参加した大学の担当者は現在も出勤して業務を行っていると話し、決められた場所で、固定のパソコンがなければ業務が進められず、上長への決裁の取り方や書類の扱いなどに課題を感じていると意見が出されました。そのような問題について新潟大学の西山氏は、「職場にいなければ仕事ができないという状況は、子育てや介護の課題を抱える人材の離職に直結してしまう」と問題提起。エデュースの芝田氏は「大学は学生や教職員が1カ所に集うことで成り立ちます。ですが、これからの未来は在宅勤務をはじめ、フレックスや時差出勤などを含めた多様な働き方が必要不可欠。不幸な離職を防ぐためにも、大学全体の意識改革が求められていると思います。私も事例共有などを通して、さらなる職場改善に役立てるよう働きかけていきたい」と話してくれました。
今回出された事例や課題はほんの一部。RPAやITツールのさらなる活用で業務改善や負担軽減は促進していくでしょう。NTTデータ RPAソリューション担当の山田氏は「今回の座談会で得た情報や気づいたこと、現在取り組まれている事業に対する新たな発見は、ぜひ明日から活用していただきたいです。そしてこの座談会でできた横のつながりを生かし、参加されたみなさんと一緒に、RPAを活用した業務改善をしていきたいと思います」と締めくくりました。DX化推進で各大学がさらに発展し、心地よい職場づくりが叶えられることを期待したいと思います。