国立5大学が座談会を開催、大学事務DXのための情報共有・連携を目指す
(左から順に)
新潟大学 西山 純一氏、岩手大学 堤 大輔氏、岩手大学 近村 元気氏、新潟大学 諸橋 史絵氏、長岡技術科学大学 久保 利樹氏
弘前大学 上明戸 寛俊氏 弘前大学 菊地 雄太氏、帯広畜産大学 杉田 帆奈美氏
2023年3月、開業間もない東京ミッドタウン八重洲内にあるシェアオフィスに、新潟大学、長岡技術科学大学、岩手大学、弘前大学、帯広畜産大学から、大学事務に携わる職員の方8人が集まり、座談会が行われました。目的は、WinActorをはじめとするIT技術の使用事例や改善のノウハウを大学間で共有し、今後の連携や共通の課題解決に役立てることにあります。座談会の発起人は、新潟大学 学術情報部情報企画課のRPA推進担当で、WinActor認定アンバサダーでもある西山 純一氏の提案を受け、NTTデータがこの場を設定しました。
本稿では、約3時間にわたった座談会の概要をご紹介します。
DXを進める上で実施しておきたい、3つのセミナー
座談会前半では、発起人でもある新潟大学の西山氏が、同大における業務改善の取り組みを共有されました。西山氏はITを効率的に活用するには、まずデジタル基礎力の向上・養成が重要だとの考えから、事務職員向けに「Excelリスキリング研修」「DX人材養成研修 初級」「事務職員が講師となって実施するFormsセミナー」を実施したといいます。
「Excelリスキリング研修」は、株式会社すごい改善が提供するセミナーを利用したもので、7時間の講習動画と実習を通してExcelを体系的に学び(直し)、全事務職員の「共通言語」になるまでにスキルアップさせることを目的としています。
「大学職員はだいたい3年に1度、異動になりますが、前任者から引き継いだExcelデータを上手く活用できないことがあります。(そもそもそのデータ自体に原因があることも…。)それはデータをつくる人、使う人、個々人のExcelの理解度に差があるからです。そこで事務職員全員に同じセミナーを受講してもらい、一定のレベルまで知識を揃えることを目指しました」(西山氏)
手上げ式にもかかわらず200人がこのセミナーへの参加を希望し、受講者からは「新採用研修のタイミングで受講したかった」「事務職員全員受講して欲しい」「独学で場当たり的に得た知識を矯正できた」「知識のアップデートができて良かった」など、好評を得たといいます。
「RPAで業務を自動化する時にも、利活用可能な標準化されたExcelであることが必須です。こうした基礎を学ぶことは、DXの最初の一歩として非常に重要だと思います」(西山氏)
今回、座談会に参加した岩手大学では、新潟大学での事例を参考に「Excelリスキリング研修」を実施されており、同学・堤氏が「VBAのマクロに取り組んだ参加者の中には、RPAとの共通点を見出して、自分にもシナリオをつくれるのではないかと思える人が増えてきたようです」と語ると、座談会参加者からは「RPAへの関心を掘り起こすことにも、こうした基礎研修は効果がありそうだ」と、感想があがっていました。
「DX人材養成研修 初級」は、西山氏がWinActor特約店エデュース(本社:東京都千代田区)とともに組み立てたプログラムです。このプログラムでは「現状の課題を見つける力」「改善案立案の力」「それを実現させる力」を養い、『DXを前提に』企画・課題解決ができる人材を育てることを目的としています。
「大学という特殊な環境のDXとビジネスの基礎を、総合的に学べるという点を学内外に評価していただいています。本学では300人が受講しており、本年度・来年度で既に実施、あるいは実施を検討されている大学が10校程あるそうです」(西山氏)
同研修をすでに導入し受講されている長岡技術科学大学・久保氏は、「これまで思っているだけだったことを、すべて言語化して教えてもらえるので、自分の中ではスッキリしました。e-ラーニング形式なので受けたい時に受けられますし、これから本学仕様への調整も考えています」と語ります。
「事務職員が講師となって実施するFormセミナー」は、アンケートや1次入力に役立つMicrosoft Formsの使い方を“超”初心者にも手厚いサポートで分かりやすく教える集合型のセミナーで、年70人が受講したといいます。
「Formsで電子化された1次データは、すでに標準化されたデータベースとなっています。そのデータの基幹システムへの転記にはWinActorを使えますから、業務フロー全体の効率化が目指せます。受講された方は実務でもちゃんと使ってくれていて、自身で業務を見直すきっかけにもなっています」(西山氏)
また、講師は事務職員が務めるため経費はかからず、実施したい時にすぐに行えたというメリットの他、受講者が翌年度の講師を務めるという流れをつくれます。
「受講者が自身の業務で使って、翌年は講師になるというスタイルにすれば、本人の身にもつきますし、人に教えるという貴重な経験をつむことができます」(西山氏)
大学間連携のメリットを感じられた、3つのイベント
西山氏は、学長から「好事例はもちろん、失敗にも同じくらい価値があるのだから、遠慮なく共有してほしい」と言われているそうで、成否を問わず幅広い事例・情報を共有しながら、大学間の互恵関係を構築していきたいと語ります。その活動の一つとして、長岡技術科学大学の職員と交流会を開催し、対面での意見交換、事例の共有などを行いました。交流会は岩手大学、弘前大学など、複数の大学での開催にまで広がりを見せています。
「WinActorの導入事例をはじめ、便利なExcelフォーマットを共有したり、不要な業務の気づきがあったり。会うことで課題が解決できた例も、もちろんできなかった例もありますが、課題を共有できたとか、相談相手ができたという参加者が多く、対面の貴重さを改めて認識しました」(西山氏)
この交流会で大学間連携の価値を確信した西山氏は2022年7月、「大学間連携 ナレッジ・シェアリング」と題したイベントをオンラインで開催しました。新潟大学・岩手大学・長岡技術科学大学など5つの大学の面々が、改善・改革の好事例をテーマに各自5分間の発表を行い、5分間の質疑を受け付けるライトニング・トーク形式で行ったところ、常時200人が接続され、チャットも読み切れないほどの盛況ぶりだったといいます。「イベント後も個別に連絡を取り合う関係ができた」「自分の業務を見直すきっかけにできた」などの好反応があり、西山氏は第2回の開催にも意欲を見せていました。
「業務改善・改革は、一人でやるには限界がありますし、それで推進する立場の人が潰れてしまうのは最悪です。自身の大学内はもちろんですが、勇気を出して他大学、そしてNTTデータ特約店のような企業ともつながり、課題の解決策があれば互いにシェアするようにしてほしいと考えています」(西山氏)
課題解決策の共有という点では、新潟大学・岩手大学・弘前大学が一堂に会して、「合同RPA製作会」も開催されています。手間と時間を要する科学研究費(※)事務の作業を自動化するシナリオを、特約店のエンジニアと共につくりあげる取り組みで、「情報交換やノウハウ共有、さらにはアジャイル開発の経験など、非常に実りある一日になった」と、西山氏は振り返ります。
※独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費助成事業により提供される「競争的研究資金」
(詳細は、アンバサダーコラム vol.5:https://cobotpia.com/ambassador/column/vol5_nishiyama/を参照)
また、「前述のとおり、一人で戦うDX担当は必ず倒れる日がきます。私が多くのアイデアを実現させることが出来たのは、いつも一緒に活動してくれる寒川さんをはじめとした本学の同志や、大学が違うにも関わらず仲間になってくれた久保さん、堤さんのおかげです」と感謝を添えていました。
共通の課題「科研費関連業務の効率化」について、語り合う
「合同RPA製作会」でテーマとなった「科研費に関連する業務の効率化」は、今回のミーティングに集まった5大学8人、皆様の課題でもあります。座談会の後半ではITを活用した作業効率化策、また各参加者から科研費事務に関する課題や悩みが、ざっくばらんに語られました。
WinActorで自動化された作業としては「科研費にまつわる書類のダウンロード」「科研費分担金の配分に関連する業務」(新潟大学)、などがあげられましたが、「審査結果の即時集計」(長岡技術科学大学)、「手続き関連メールを宛名付で自動送信」(岩手大学)のようにExcelやGoogleスプレッドシートの機能を利用して効率化を図っている例も紹介され、適材適所でのツール利用が効率化への近道であることが再認識されました。
弘前大学・菊地氏、帯広畜産大学・杉田氏からは、研究者への通知送付に関する効率化事例が紹介されました。弘前大学では「科研費電子申請システムからダウンロードした交付決定通知書のファイル名に、部局名・研究者名などをExcelのマクロで自動追記して、誰に送付すべきかが一目瞭然になるようにしている」、帯広畜産大学では「各種通知文書を、紙から電子データでの送付に変更したところ、封入・送付の手間がなくなっただけではく、相手先から『受け取っていない』『紛失した』と言われることがなくなって、効率化が進んだ」との内容でした。
これを聞いて「やはり本学でもペーパーレス化を推進しなければ」という声が聞かれる一方、新潟大学では「通知書は送付せず、必要な場合に研究代表者がダウンロードできる旨周知している。個別に送付しないことで事務側の業務軽減にも繋る」という効率化手法も紹介され、改善の正解はひとつではない事がわかりました。
その他、「DXに抵抗感を持つ担当者への接し方」「異動時の引き継ぎを円滑に進めるには」といった現場ならではの悩みに関しても、共感の声があがったりアドバイスがなされたりと、時間いっぱいまで話題は尽きませんでした。
NTTデータ RPAソリューション担当 部長の森 和彦は、「私たちの仕事はツールの提供だけではなく、皆さんの業務の負担を軽減することだと思っています。今日の座談会を通して大学職員の皆様が何に困っているのかを伺い、開発の参考にさせていただきたいとも考えています」と、今回のような場の意義を語り、また同担当 課長代理の山田 優樹は「今回だけで終わらせるのではなく、業界を変えたり手法を変えたりして、今後も続けていきたい」と、意欲を示しています。
業務改善やDXに関する悩み・課題を担当者一人で抱え込まず、幅広く共有し、皆で解決策を探る――NTTデータとしては、そのためのユーザー交流を支援してまいります。今回のようなイベント開催を希望されるお客様は、ぜひ一度、当社にご相談ください。